自筆証書遺言

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、その名前のとおり、遺言者自らが作成する遺言のことを意味します。
自筆証書遺言は、紙、ペン、印鑑さえあれば、特段費用をかけることなく作成することができますから、最も簡便に作成できるものと言って良いでしょう。

確かに、公正証書遺言の方が、公証人の立ち会いの下に作成されますから、その信用力は大きいといえます。また、自筆証書遺言では、「検認」手続を行う必要があります。検認とは、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など、遺言書の内容を明確にし、遺言書の偽造・変造を防止するための手続のことです。遺言の有効・無効を判断する手続ではありませんが、自筆証書遺言では、遺言者が死亡した後で、不可欠の手続となります。

しかし、遺言者の健康状態から公正証書遺言を作成しているような時間の余裕がないという場合があります。このような事態においては、公正証書遺言の作成手続を進めつつ、自筆証書遺言も作成するということになります。

ただし、簡便に作成することができる分、その方式については、十分に注意をしなければなりません。

自筆遺言証書を作成するには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないと規定されています(民法968条1項)。

ここで、全文を自書していなければならず、ワープロなどの機械を用いて作成した遺言書は無効と解されています。もし、遺言者が特定の者に財産を渡すことを決めているものの、長文の文章を作成することが難しい場合には、「遺言者の有する一切の財産を、〇〇〇に相続させる」「遺言者の有する一切の財産を、〇〇〇に包括して遺贈する」という「一切の財産」という表現を用いるなどの工夫が必要となるでしょう。

ところで、改正民法(2019年1月13日施行)によれば、「自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全文又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。」という規定が設けられました(民法968条2項)。

つまり、遺言者によっては、その財産の情報を全て自書することが難しい場合、一体のものとしての相続財産目録であれば、自書ではなく、ワープロなどを用いて作成することも可能となりました。

ただし、民法968条2項において、「遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」と記載されていますので、この相続財産目録に、署名、捺印することは忘れてはなりません。

また、遺言書には、日付を書くことも忘れてはなりません。この日付ですが、年月日を記載しなければなりません。ここで、年月の記載はあるものの、日の記載がない遺言は昭和52年11月29日付最高裁判所第三小法廷判決により、無効と判示されています。
また、日付について「吉日」と記載された遺言についても、昭和54年5月31日付最高裁判所第一小法廷により、無効とされていますから注意が必要です。

さらに、氏名を記載し、押印することになりますが、この押印は、実印でなくとも、認印でも問題ないとされています(平成5年8月30日付東京高等裁判所判決)。また、指印でも問題ありません(平成元年2月16日付最高裁判所第一小法廷判決)。
もっとも、後に、本人が作成したものかどうか、真正性についての争いを可能な限り避けるという意味では、実印を用いた方が良いと思われます。

このように、自筆証書遺言においては、厳格な要式が求められていますから、その作成には十分に注意しなければなりません。
また、自筆証書遺言は、自宅に保管されることが多く、紛失してしまうリスクもあります。他の相続人により、破棄等されてしまうリスクも否定できません。

ここで、令和2年7月10日から、「法務局における自筆証書遺言書保管制度」が施行されることになりました。
この制度を利用することで、法務局に自筆証書遺言書を保管してもらうことができるようになり、紛失リスクを回避することが可能となりました。
また、法務局において、遺言書の要式性を確認してもらうことができ、自筆証書遺言のデメリットであった検認も不要になるという大きなメリットがあります。

相続人や受遺者としては、①遺言書が保管されているかどうかを調べること(遺言書保管事実証明書の交付)、②遺言書の内容の証明書の交付を請求すること(遺言書情報証明書の交付)、③遺言書保管所において遺言書の内容を見て確認すること(遺言書の閲覧請求)が可能になり、遺言者が死亡後、遺言書を探す必要はありません。

自筆証書遺言は、厳格な要式性が求められますが、その作成方法が簡便であることもあり、頻繁に利用されるものです。その反面、要式に適合していないなどのリスクも否定できません。遺言書の作成においては、法律改正がなされたところもありますので、自筆証書遺言作成についてお考えの方はお気軽にくぬぎ経営法律事務所にご相談いただければ幸いです。

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くぬぎ経営法律事務所弁護士・中小企業診断士 上村康之

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